テーマ別執筆:林部(株式会社リベライズ 代表)

オフショア開発のメリット・デメリット|発注前の判断基準

オフショア開発のメリットとデメリットを発注者向けに解説。コスト削減の目安と為替の影響、主な発注先の国、コミュニケーションと品質管理の課題、向いている案件を紹介します。

開発費を抑える方法として、海外の開発会社に委託するオフショア開発を検討する企業があります。単価が安いという話は聞くものの、本当に安くなるのか、品質は大丈夫かと迷う方も多いはずです。この記事では、オフショア開発のメリットとデメリットを発注者の立場から整理します。コスト削減の目安と為替の影響、主な発注先の国、コミュニケーションと品質管理の課題、向いている案件が分かります。

オフショア開発のメリット・デメリット

オフショア開発とは、システム開発の一部または全部を海外の開発会社や海外拠点に委託することです。主なメリットとデメリットは次のとおりです。

観点メリットデメリット
費用人件費の安い国では人月単価を抑えられる管理や手戻りの費用が増え、総額の差は単価差より小さくなりやすい
人材国内で不足しがちなエンジニアをまとまった人数で確保できる担当者の入れ替わりが多いと、知識が蓄積しにくい
進め方時差を使えば日本の夜間に作業を進められる場合がある言語や商習慣の違いで、仕様の誤解が起きやすい
品質品質管理の仕組みが整った会社なら安定した成果が出る品質の基準を発注側が示さないと、期待とずれる
情報管理―個人情報や機密情報を国外で扱うことへの確認が必要

コスト削減効果の目安と円安の影響

オフショア開発の仲介サービスを運営するオフショア開発.comが公表しているオフショア開発白書(2025年版)の単価データでは、主な国の人月単価は次のとおりです。

国プログラマーブリッジSEPM
ベトナム401,000円590,000円714,000円
フィリピン372,000円605,000円635,000円
インド375,000円600,000円675,000円
中国583,000円758,000円846,000円

人月単価とは、エンジニア1人が1か月働いた場合の費用です(詳しくは人月単価とは)。

ただし、単価の差がそのまま削減額になるわけではありません。オフショア開発では、次の費用が追加でかかります。

  • 日本側と現地をつなぐブリッジSEの費用
  • 日本側のプロジェクト管理や受入確認の工数
  • 仕様書の翻訳や、詳細な仕様書を作る工数
  • 誤解による手戻りの修正

総額で比べるには、これらを含めた見積を国内の会社と並べて確認します。

為替の影響

契約が現地通貨建てやドル建ての場合、円安になると円で払う金額が増えます。円建ての契約でも、開発会社は為替や現地の賃金上昇を次回の単価に反映します。複数年にわたる開発や保守では、為替の変動で予算がずれることを前提に、見直しの条件を契約で決めておきましょう。

主な発注先の国と特徴

国日本との時差特徴
ベトナム2時間日本向けの開発会社が多く、日本語を話すブリッジSEも比較的見つけやすい
フィリピン1時間英語が公用語の一つで、英語でのやり取りがしやすい
インド3時間30分IT人材の層が厚く、大規模な開発の経験を持つ会社が多い
中国1時間日本との取引の歴史が長いが、上の表のとおり単価は高めになっている

国の特徴より大切なのは、個々の会社の実績と体制です。同じ国でも、日本企業との取引経験、日本側の窓口の有無、品質管理の仕組みは会社ごとに大きく違います。

コミュニケーションと品質管理の課題

オフショア開発で問題になりやすいのは、次の3点です。

仕様の暗黙の前提が伝わらない

国内の会社なら「言わなくても分かる」ことが、海外では伝わりません。画面の文言、日付や住所の書き方、業務上の例外処理などは、仕様書に明記する必要があります。仕様書を作る手間は、国内発注より増えると考えてください。

品質の基準がずれる

「完成」の基準が発注側と違うと、納品後に大量の修正が発生します。受入基準とテストの範囲を契約前に文書で合意しておきます(受入テストの進め方)。

情報を国外で扱うことの確認

個人情報や顧客データを海外の事業者に扱わせる場合は、個人情報保護法上の確認が必要です。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)などを確認し、必要に応じて専門家に相談してください。社内規程や取引先との契約で、データの国外持ち出しが禁止されていないかも確認します。

ブリッジSEの役割と向いている案件

ブリッジSEとは、日本の発注者と海外の開発チームの間に立ち、仕様の説明、質問の取りまとめ、進捗の報告を担う技術者です。言葉の通訳だけでなく、日本の商習慣や品質への期待を開発チームに伝える役割があります。オフショア開発の成否は、ブリッジSEの力量に大きく左右されます。

オフショア開発が向いている案件、向かない案件は次のとおりです。

  • 向いている:仕様が固まっている、開発量が多い、長期間続く保守や機能追加、テスト作業
  • 向かない:要件が固まっていない新規事業、短期間の小規模案件、機密性の高い情報を扱う案件、発注側にIT担当がいない案件

新規事業のように仕様を走りながら決める案件では、細かな意思疎通の量が多くなります。その場合は、国内の会社と小さく始める方が結果的に早いこともあります(MVP開発とは)。

受託開発の現場から

オフショアを使わず、国内要員のみで対応する開発会社もあります。そうした受託開発会社の一つは、商談や提案で次のように対応しています。

  • 商談では、実装は国内の日本人エンジニアが担当すると説明しています。上の表の海外単価と比べる際は、国内の開発会社の見積にある役割ごとの単価と並べて見てください。
  • 発注者から個人情報の国外持ち出しについて確認を受けた案件では、「開発の実装はすべて国内要員で対応する」「顧客情報を国外へ持ち出さない」と提案書に明記しました。情報の扱いを文書で約束することが、発注者の判断材料になります。
  • AIでコードレビューを行う場面でも、ソースコードを海外のサービスに見せることへの懸念を話しています。人に委託する場合もAIに渡す場合も、ソースコードや情報がどこで扱われるかを確認する考え方は同じです。
  • 海外市場向けの案件では、現地の朝が日本の夕方になるといった時差に合わせてチームを編成できると答えています。時差は不利な条件にも、作業時間を延ばす条件にもなります。

まとめ

  • オフショア開発は人月単価を抑えられるが、管理や手戻りの費用を含めた総額で比べる
  • 為替や現地の賃金上昇で単価は変わる。複数年の契約では見直し条件を決めておく
  • 国の特徴より、個々の会社の実績、日本側の窓口、品質管理の仕組みを確認する
  • ブリッジSEの力量と、仕様書・受入基準の明確さが成否を分ける
  • 仕様が固まった開発量の多い案件に向き、要件が流動的な新規事業には向きにくい

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