請負契約と準委任契約の違い|工程ごとの使い分け
システム開発の請負契約と準委任契約の違いを解説。完成義務の有無、要件定義・開発など工程ごとの使い分け、アジャイルやAI開発で準委任が選ばれる理由を発注者向けに紹介します。
システム開発の契約形態には、大きく分けて請負契約と準委任契約があります。請負と準委任の違いは「完成させる義務があるかどうか」で、この違いが費用の決まり方や仕様変更への強さ、トラブル時の責任に影響します。この記事では、発注者が押さえておきたい両者の違いと、要件定義・開発など工程ごとの使い分け、準委任の中の「履行割合型」と「成果完成型」の違いを整理します。
請負と準委任の違いは「完成義務」の有無
民法上、請負は「仕事を完成すること」を約束し、その結果に対して報酬を払う契約です(民法第632条)。準委任は、法律行為ではない事務(作業)を任せる契約で、受託者は「善良な管理者の注意」(専門家として通常求められる注意)をもって業務を行う義務を負います(同法第656条・第644条)。
発注者から見ると、請負は「決めた物が完成する」安心感があります。その代わり、開発会社は完成のリスクを負うため、見積に予備の工数を乗せる傾向があります。準委任は柔軟に進められる一方、発注者側にも進行への関与が求められます。
工程ごとの使い分け
1つのプロジェクトの中で、工程ごとに契約形態を変えることがあります。IPA(情報処理推進機構)の情報システム・モデル取引・契約書(第二版)では、次のような型を1つのモデルとして示しています。
要件定義を準委任とする理由は、開始時点では発注者自身にも成果物の中身が具体的に見えておらず、開発会社が完成を約束できないためです。反対に、設計が固まった後のプログラミングは作る物を特定できるので、請負になじみます。
モデル契約書は、請負にすると発注者側に「丸投げ」の意識が強くなりやすい点も指摘しています。請負にしたからといって、要件を決める責任まで開発会社に移るわけではありません。
アジャイル開発やAI開発で準委任が多い理由
アジャイル開発は、作りながら優先順位や機能を見直す進め方です。最初に完成形を特定できないため、IPAのモデル取引・契約書(アジャイル開発版)は準委任契約を前提にしています。
生成AIを組み込む開発も同じ傾向があります。AIの回答精度は、実際のデータで試すまで分からない部分が大きく、「精度◯%を完成とする」と事前に約束しにくいためです。まず検証(PoC)を準委任で行い、結果を見て次の範囲を決める進め方がよくとられます。検証、最小限の製品(MVP)、本格展開と段階ごとに契約を分けておけば、結果が基準に届かなかったときに中止や方向転換を判断しやすくなります。発注者にとっては、一度に大きな金額を投じずに済むという利点もあります。
準委任の「履行割合型」と「成果完成型」
2020年4月1日に施行された改正民法(法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について)で、準委任の報酬の払い方として2つの型が条文上はっきりしました。
成果完成型は請負に似ていますが、別物です。準委任である以上、受託者は完成義務を負わず、負うのは善管注意義務です。ただし報酬は成果に対して払う約束なので、どの状態を「成果」とするかを契約で具体的に決めておく必要があります。
なお、成果完成型で途中終了した場合の報酬は、請負の規定(民法第634条)が準用され、発注者が受ける利益の割合に応じて計算されます。履行割合型で途中終了した場合は、既にした業務の割合に応じて報酬を請求できると定められています(民法第648条第3項)。
契約前に発注者が確認したいこと
契約書の表題が「請負」か「準委任」かだけで判断せず、中身を確認することが大切です。民法の規定の多くは、契約で別の定めを置けば変えられるためです。少なくとも次の点は、見積の段階で開発会社に確認しておきましょう。
- 工程ごとの契約形態(要件定義と開発で分けるのか、一括なのか)
- 準委任の場合、履行割合型か成果完成型か。成果完成型なら「成果」の定義
- 報酬の決め方(固定額、月額、工数の実績精算)と上限額
- 仕様変更が出たときの手続きと、費用・納期への反映方法
- 納品後の不具合にどこまで、いつまで対応するか
- 途中で中止した場合の精算方法
この中で特に揉めやすいのは、仕様変更と納品後の不具合の扱いです。詳しくは仕様変更・追加費用のトラブルを防ぐ方法と契約不適合責任とはで解説しています。
受託開発の現場から
ここからは、ある受託開発会社の見解です。一般論ではなく、受託開発の現場での考え方として紹介します。
- 新規事業とAI開発には「準委任の成果完成型」を勧めている。 請負は要件定義を厳密にする必要があり、途中で動きにくいためです。成果完成型なら、「目的に適合し、ユーザーが体験として動く」ところまでは工数にかかわらず担保し、その範囲での実現方法は柔軟に変えられる、という説明です。
- 履行割合型はお勧めしていない。 作業時間に応じて報酬が増えるため、開発会社がゆっくり作るほど儲かるという利益相反(モラルハザード)が起きうる、という懸念です。
- 請負は総額が高くなりがち。 請負では開発会社が完成リスクに備えたバッファー(予備の工数)を積むため、2〜3割割高になりやすい、という見方です。また、完全な請負は「一切の仕様変更なく稼働させる」前提なので、外部設計まで終わっていない段階では受けられない、という立場です。請負で揉めやすいのは、前の工程の要求漏れを後の工程で「知りません」とされるケースだとも指摘しています。
- 準委任で総額を抑えるには発注者の協力が要る。 うまくいけば総額は2割程度下がるが、発注者側にも入ってもらう必要がある、という説明です。同社の提案書では、事前調査を準委任の定額とし、範囲内の工数増は開発会社の負担、範囲の追加は事前相談のうえ別途見積、と線を引いた例もあります。
まとめ
- 請負は「完成」を約束し、準委任は「業務の遂行」を約束する
- 要件定義は準委任、設計後の開発は請負という工程別の使い分けが一つの型
- アジャイル開発やAI開発は、作る物が途中で変わるため準委任が多い
- 準委任には履行割合型と成果完成型があり、成果完成型では「成果」の定義を契約で明確にする
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の契約や法的判断については弁護士などの専門家にご相談ください。
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