発注の準備執筆:林部(株式会社リベライズ 代表)

スクラッチ・パッケージ・SaaS・ノーコードの選び方

スクラッチ開発・パッケージ・SaaS・ノーコードの違いを費用・期間・拡張性で比較。業務の独自性で選ぶ判断軸と、SaaSと個別開発を組み合わせる選択肢を発注者向けに解説します。

業務をシステム化するとき、スクラッチ開発・パッケージ・SaaS・ノーコードのどれを選ぶかで、費用も期間も将来の自由度も大きく変わります。この記事では、4つの方式の違いを比較表で整理し、「業務の独自性」で選ぶ判断軸と、SaaSと個別開発を組み合わせる選択肢を発注者向けに解説します。

スクラッチ・パッケージ・SaaS・ノーコードの違い

まず、それぞれの言葉の意味を確認します。

  • スクラッチ開発: 既製品を使わず、自社の業務に合わせて一から作る方式
  • パッケージ: 業務ごとに作られた既製ソフトを購入し、設定や追加開発で合わせる方式
  • SaaS: インターネット経由で、既製のサービスを月額などで利用する方式
  • ノーコード/ローコード: プログラムをほとんど書かず、画面上の操作でアプリを組み立てる方式

SaaSの利用は広がっています。総務省の令和6年通信利用動向調査では、クラウドサービスを利用する企業は8割を超えています。一方で、すべての業務がSaaSで済むわけではありません。どこまでを既製品で賄い、どこを作るかの判断が必要です。

4方式の費用・期間・拡張性の比較表

方式ごとの特徴を比較します。金額は規模で大きく変わるため、ここでは相対的な比較にとどめます。

観点スクラッチ開発パッケージSaaSノーコード/ローコード
初期費用高い中〜高い低い低〜中
月額費用保守・インフラ費保守費・ライセンス利用料(人数や件数で増える)ツール利用料
導入までの期間長い中程度短い短い
業務への適合自由に合わせられる製品の範囲で合わせる業務をサービスに合わせるツールの範囲で合わせる
拡張性高い製品の仕様に左右される提供側の機能追加に依存ツールの制約を受ける
他社への乗り換えソースコードの権利次第難しい場合が多いデータの出力機能次第ツールに依存しやすい

表の「月額費用」の行は特に注意が必要です。SaaSは初期費用が低い反面、利用人数や処理件数に比例して費用が積み上がります。5年など長い期間で合計すると、順位が入れ替わることがあります。

業界標準の業務はSaaS、独自業務はスクラッチという判断軸

判断の基本は、その業務が「どの会社でもほぼ同じか」「自社のやり方が強みか」です。

業務の性質例向いている方式
業界標準で、法令や慣習でやり方が決まっている会計、給与、勤怠、電子契約SaaS、パッケージ
自社独自のやり方が競争力になっている独自の見積ロジック、独自の顧客体験スクラッチ開発
小規模で、期間や利用者が限られる期間限定のシフト管理、社内の申請ノーコード/ローコード

会計や給与のような業務を自社で作り込んでも、差別化にはなりにくく、法改正のたびに改修費がかかります。逆に、自社の強みである業務をSaaSに合わせると、強みそのものが失われることがあります。

判断に迷ったら、「この業務のやり方を変えてもよいか」を現場に聞いてください。変えてよいならSaaS、変えたくない理由が売上や顧客満足に直結するならスクラッチが候補です。

ノーコード/ローコードが向くケースと限界

ノーコードは、短期間で動くものを作れるのが最大の利点です。向いているのは次のようなケースです。

  • 利用者が社内の少人数に限られる
  • 期間限定の業務や、試しに使ってみたい段階のもの
  • 画面と簡単なデータ管理で足りる業務

限界もあります。

  • 複雑な業務ルールや大量のデータ処理には向かない場合がある
  • 検索エンジン向けの公開ページの作り込みに弱いツールがある
  • ツールの料金改定やサービス終了の影響を直接受ける
  • ツールに依存し、別の方式へ移すときに作り直しになりやすい

なお最近は、AIがプログラムを書く「AIコーディング」で、スクラッチ開発の費用と期間を抑える方法も出てきています。ノーコードと従来型のスクラッチの中間の選択肢として、見積の際に聞いてみる価値があります。

SaaSと個別開発を組み合わせるという選択肢

実務では、1つの方式に決めるより、組み合わせる方が合理的な場合が多くあります。

  • すでに使っている会計や契約のSaaSは置き換えず、新しく作る部分とAPI(システム同士をつなぐ窓口)やCSVでつなぐ
  • 社内の顧客管理システムを「正」のデータ置き場にして、その上に顧客向けのアプリをかぶせる
  • 最初はSaaSを組み合わせて早く作り、利用が増えて従量費が重くなったら一部を自前に移す

組み合わせの利点は、既製品の安さと早さを生かしつつ、自社の強みの部分だけに開発費を集中できることです。組み合わせるときは、どのシステムのデータを正とするかを先に決めておきます。決めないまま足していくと、同じ顧客の情報が複数の場所に散らばります。乗り換えにくさについてはベンダーロックインを避ける方法も参考にしてください。

方式を選ぶ前に確認したい質問

開発会社やSaaSの提供元に、次の質問をしておくと判断を誤りにくくなります。

  • 利用人数や件数が2倍、5倍になったとき、月額費用はいくらになるか
  • データを一括で出力できるか。その形式は何か
  • 自社で設定を変えられる範囲と、依頼が必要な範囲はどこか
  • 提供が終了した場合や、別の方式に移る場合の手順はあるか

答えがあいまいな場合は、5年間の総額と、乗り換えにかかる手間を比べてから決めてください。

受託開発の現場から

受託開発の提案では、方式を1つに決め打ちせず、比較表で発注者に選んでもらう進め方があります。その具体的な進め方を紹介します。

同じ要件で複数の方式を並べて見せる

ある受託開発会社の提案では、同じ要件に対して「AIコーディングでの構築」「CMSと会員システムの組み合わせ」「従来型のフルスクラッチ」などの案を並べます。比べる観点は、検索対応、社内での更新のしやすさ、拡張性、保守、初期費用、月額、期間です。ある事例では、従来型のフルスクラッチはAIコーディング案の2倍以上の初期費用、約2.5〜3倍の期間になると試算しました。

SaaSは「件数」で選ぶ

電子署名のようにSaaSで品質を早く担保できる機能でも、月間の件数を最大の判断材料にするのが有効です。従量の利用料は件数に比例して積み上がるため、件数のデータがそろってから方式を比較し直します。

小さく始めて、規模が見えてから自前化する

電話応答のような機能は、既存のSaaSを組み合わせれば短期間で作れます。原価を下げるための自前化は、利用する店舗が数百、数千と見えてから検討する順序が有効です。AIも同様で、自社専用のAIを一から作るより、汎用の生成AIを組み合わせる方法を基本にするとよいでしょう。

既製品で検証できる範囲を先に確かめる

ある試作の提案では、第1段階は既存の標準アプリをそのまま使い、追加開発なしで始めました。「標準アプリで検証できる範囲」と「できない範囲」を表にし、独自開発に進むかどうかを発注者が判断できるようにしています。

まとめ

  • 4方式は初期費用だけでなく、月額費用・拡張性・乗り換えやすさで比べる
  • 業界標準の業務はSaaSやパッケージ、自社の強みになる業務はスクラッチが基本
  • ノーコードは小規模・期間限定・試行の段階に向き、複雑な業務やツール依存には限界がある
  • SaaSと個別開発の組み合わせが現実的な場合が多く、データの正をどこに置くかを先に決める

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