システム開発の稟議を通すための費用対効果(ROI)の示し方
システム開発の稟議を通すための費用対効果(ROI)の示し方を解説。業務効率化・売上・損失削減での効果の数値化、計算式の使い方、経営層の「なぜ今か」への答え方を紹介します。
システム開発の稟議が通らない理由の多くは、効果の示し方にあります。「便利になる」「効率が上がる」だけでは、経営層は投資を判断できません。この記事では、システム投資のROI(費用対効果)を数字で示す方法と、計算式の記入例、経営層が必ず確認する「なぜ今か」への答え方、稟議書に添付すべき資料をまとめます。
システム開発の稟議で問われるのはROIの根拠です
ROIは「投資に対して、どれだけの効果が返ってくるか」を示す指標です。稟議で経営層が確認するのは、主に次の4点です。
- いくらかかるのか(初期費用と、毎年かかる費用)
- 何がどれだけ良くなるのか(効果の金額)
- 何年で元がとれるのか(回収期間)
- なぜ今やる必要があるのか
このうち最も弱くなりやすいのが「効果の金額」です。効果を金額にするには、効果を種類ごとに分け、それぞれ計算式を決めておく必要があります。
効果は「業務効率化」「売上向上」「損失削減」の3つで数値化します
効果は次の3種類に分けると、漏れなく、重複なく整理できます。
業務効率化は「1件あたりの時間」から積み上げる
紙や手作業の業務は、「月間件数 × 1件あたりの所要時間 × 人件費単価 × 12ヶ月」で年間コストを出します。工程が複数あれば、工程ごとの所要時間を足します。書類の保管や廃棄の費用があれば、それも加えます。
売上向上は保守的な数字で出す
売上の効果は前提が多く、楽観的になりがちです。「保守的・標準・積極的」の3つのシナリオで出し、稟議では保守的なシナリオを基準にすると、承認する側も判断しやすくなります。
損失削減は見落とされやすい
入力ミスの修正にかかる時間、問い合わせへの対応、取りこぼした顧客など、「起きている損失」も効果に入ります。既存システムを廃止できる場合は、その保守費の削減も効果です。
ROIの計算式と記入例
ROIの基本の計算式は次のとおりです。
ROI(%)=(効果額 − 投資額)÷ 投資額 × 100
投資額には、開発費だけでなく、その期間にかかる保守費やインフラ費も含めます。期間をどう置くかは社内で決める必要がありますが、一つの目安になるのが税務上の耐用年数です。国税庁によると、自社で利用するソフトウェアの耐用年数は5年とされています。5年で効果を見ると、経理部門とも話を合わせやすくなります。
以下は、数字をすべて仮に置いた記入例です。
この表で大事なのは、数字よりも「計算の前提」の列です。経営層は前提を見て、数字が妥当かどうかを判断します。前提のデータをどこから取ったか(業務の実測、過去の実績、公表事例など)も書き添えましょう。公表されている他社の事例を使う場合は、業務が違えば効果も違うため「参考値」と明記します。
経営層が確認する「なぜ今か」への答え方
ROIが良くても、「来年でもよいのでは」と言われることがあります。「なぜ今か」には、次のどれかで答えます。
- 待つほど損失が増える: 機会損失や業務コストを月額で示し、「1ヶ月遅れるごとにいくら失うか」を書く
- 期限がある: 既存システムの保守終了、制度の変更、担当者の退職など、動かせない日付を示す
- 小さく始められる: 今年度の予算内で調査や試作だけを先に行い、本開発の判断は結果を見てから行う
3つ目は特に有効です。最初の投資を小さくすれば、稟議の金額も下がり、判断のハードルが下がります。段階的に投資する考え方はMVP開発の記事でも紹介しています。
「なぜ今か」を書くときは、反対意見も先に想定しておくと説得力が増します。「既存の方法で困っていない」「現場が使いこなせるか不安」といった声には、現場の困りごとの実例や、試行期間の設定で答えられます。
稟議書に添付すべき資料
稟議書の本文は1〜2枚に収め、根拠は添付資料に回します。添付しておくと質問が減る資料は次のとおりです。
- 効果の試算表: 計算式、前提値、データの出典を明記したもの
- 見積書: 初期費用と月額費用が分かれたもの。相見積をとった場合は比較表も
- 段階計画: 何を、どの順番で、いくらで進めるか。各段階の判断基準
- 方式の比較: スクラッチ開発、SaaS、ノーコードなど、他の手段と比べた結果
- リスクと撤退基準: 効果が出なかった場合にどこで止めるか
撤退基準まで書いてあると、承認する側は「失敗したときの損失の上限」が分かり、判断しやすくなります。
受託開発の現場から
受託開発の現場では、発注担当者の稟議づくりを支援する機会も多くあります。そこで使われている考え方と進め方を紹介します。
前提値を実測するまで、ROIを金額で出さない
ある受託開発会社の提案では、ROIの金額を根拠なしには示しません。まず効果ごとの測定方法と計算式を定義し、事前調査で前提値を実測してから、出典と算定根拠を付けた試算表として出します。早い段階で大きな効果額を出すと、後で説明がつかなくなるからです。
短期と中長期の効果を分けて示す
経営層からは、すぐ出る効果と時間がかかる効果を分けて示すよう求められることがあります。その場合は、即効性のある施策と中長期の施策を分けて扱い、それぞれの効果を時間軸で整理すると伝わりやすくなります。
開発費だけでなく、運用時の原価まで含める
受託開発の現場では「事業が成り立つかの鍵は原価構造」という見方があります。AIや通話などの従量課金がある仕組みでは、利用が増えるほど月額費用も増えます。ROIは開発費だけでなく、運用時の原価率まで試算して判断するのが有効です。
役員向け資料も支援の範囲に入れる
役員向けの説明資料や投資対効果の資料を発注者と共同で作ることを、事前調査の支援範囲に入れる開発会社もあります。また、最初の調査を今年度の予算内で始められる小さな契約にし、本開発の予算はその結果で確定させる形も有効です。
まとめ
- 稟議で問われるのは「効果の金額」と、その前提の根拠
- 効果は業務効率化・売上向上・損失削減の3つに分け、計算式を決めて数値化する
- 投資額には開発費だけでなく保守費やインフラ費、従量課金の原価も含める
- 「なぜ今か」には、待つ損失・動かせない期限・小さく始める案のどれかで答える
- 試算表・見積・段階計画・撤退基準を添付すると、承認する側が判断しやすい
本記事の税務に関する記述は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の会計・税務処理については税理士などの専門家にご相談ください。
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