運用・保守執筆:林部(株式会社リベライズ 代表)

レガシーシステム刷新の進め方|中小企業の「2025年の崖」対策

レガシーシステム刷新の進め方を中小企業向けに解説。2025年の崖の現状、完全移行・置き換え・段階的移行の選び方、技術者が足りない中で刷新を進める方法を紹介します。

長年使ってきた基幹システムが古くなり、担当者も減っている。そんな中小企業の経営者や管理部門の方に向けて、レガシーシステム刷新の進め方を解説します。「2025年の崖」と呼ばれた問題の概要と現状、刷新の3つの選択肢、技術者が足りない中での進め方、優先順位のつけ方が分かります。

レガシーシステム刷新と「2025年の崖」

レガシーシステムとは、古い技術で作られ、改修を重ねて複雑になり、中身を分かる人が限られてしまったシステムのことです。

「2025年の崖」は、経済産業省が2018年9月に公表したDXレポートで使われた言葉です。複雑化・ブラックボックス化した既存システムが残ると、2025年以降に大きな経済損失が生じうると警告しました。その規模は最大で年間12兆円と試算されています。

2025年を過ぎた今も、この問題は解消していません。経済産業省は2025年5月28日に、レガシーシステムの現状と対策をまとめたレガシーシステムモダン化委員会の総括レポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」を公表しています。期限が過ぎたから終わりではなく、引き続き取り組むべき経営課題です。

中小企業では、次のような状態があればレガシー化が進んでいると考えてよいでしょう。

  • 作った担当者や外注先が退職・廃業し、仕様を説明できる人がいない
  • OSやミドルウェアのサポート期限が切れている、または近い
  • 小さな改修でも見積が高く、時間がかかる
  • 紙やExcelでの二重入力が、システムの外側で増えている
  • 新しいクラウドサービスとデータ連携ができない

刷新の選択肢:完全移行・置き換え・段階的移行

刷新の方法は、大きく3つに分けられます。

選択肢内容向いているケース主なリスク
完全移行(全面再構築)業務を見直したうえで、新しいシステムを作り直し一度に切り替える業務のやり方自体を変えたい、現行の構造が限界費用と期間が大きい。切替時の影響が全体に及ぶ
置き換えパッケージやSaaS(クラウドで提供されるソフト)に乗り換える会計・勤怠など、どの会社でも業務が似ている領域業務をソフトに合わせる必要がある。独自機能は残せない
段階的移行機能・部門・拠点ごとに少しずつ新しい仕組みへ移す止められない業務が多い、予算を分けたい移行期間中は新旧の連携と二重管理が必要

どれか1つを選ぶというより、組み合わせることが多くなります。たとえば会計はSaaSに置き換え、自社独自の受注管理は段階的に作り直す、という形です。SaaSやパッケージとの比較はスクラッチ・パッケージ・SaaS・ノーコードの選び方で詳しく扱っています。

データの移し方は刷新の成否を左右します。移行方式と注意点はシステム刷新時のデータ移行を参照してください。

技術者が足りない中で刷新を進める方法

社内にIT担当が1人しかいない、あるいは兼務という中小企業は珍しくありません。その場合でも、次の進め方で刷新は前に進められます。

1. 先に「現状の見える化」だけを切り出して発注する

いきなり開発を発注せず、現行システムの棚卸しと業務フローの整理を、小さな調査として先に依頼します。成果物は、機能一覧、データ一覧、外部連携の一覧、課題の一覧です。この資料があれば、複数の開発会社に同じ条件で見積を依頼できます。

2. 社内に「判断する人」を1人決める

技術が分からなくても構いません。業務の優先順位を決め、現場の意見をまとめる人が必要です。開発会社に任せきりにすると、刷新後に「現場で使えない」システムになりがちです。丸投げのリスクもあわせてご覧ください。

3. 標準的な技術とサービスを選ぶ

刷新後に再び属人化しないよう、広く使われている技術やクラウドサービスを選びます。設計書とソースコードを自社で保管できる契約にしておけば、将来ほかの会社に引き継ぐこともできます(ベンダーロックインを避ける方法)。

4. AIを使った開発も選択肢に入れる

最近はAIによるコード生成で、既存の仕組みの解析や書き換えの工数を減らす開発会社も出てきました。ただし、AIで書いたコードを誰が保守できる形に整えるのかは、事前に確認が必要です。

刷新の優先順位のつけ方

複数のシステムが古くなっている場合、全部を同時に刷新する必要はありません。次の4つの観点で点数をつけ、順番を決めます。

  • 業務への影響:止まったときに売上や顧客対応がどれだけ止まるか
  • 保守の継続性:サポート期限、保守できる人がいるか
  • 刷新の効果:作り直すと、どれだけ手間やコストが減るか
  • 他システムとの依存:ほかのシステムの刷新の前提になっているか

「止まったら困る」かつ「保守できる人がいない」ものが最優先です。逆に、影響が小さく当面保守できるものは後回しにできます。最初は効果が見えやすい小さな範囲から始め、成果を確認して次の投資を判断すると、社内の合意も取りやすくなります。

受託開発の現場から

ある受託開発会社が、刷新の提案で実際にとっている考え方を紹介します。

  • 刷新の理由として、古い仕組みの費用対効果の悪さに加え、「AI時代に合わせてアーキテクチャが陳腐化している」点を挙げています。インフラは標準的な構成に寄せ、AIを使ったコーディングで書き換える方針です。一方で、AIを前提にした見積はまだ精査が必要だと、慎重な姿勢も示しています。
  • 現行サイトの刷新では、「部分改修」と「共通基盤への全面刷新」を、表示速度、検索対策、運用保守、将来の連携、費用と期間、リスクで比較表にし、推奨案を示しています。全面刷新のリスクとして、最初の1件目に基盤への投資が集中する点も明記します。
  • 退任した担当者が残したスクリプトは、すぐに捨てません。保守できる設計に作り直す案を、松竹梅の3段階で示す方針です。作り直す際は、部品に分ける、設定を外に出す、自動テストを付ける、誤削除を防ぐ、といった点を備えます。
  • 紙中心の業務では、まず現状の業務フローを書き出し、紙が原因で手間が出ている工程を特定します。そのうえで、あるべき業務フローと解決策の対応表を作ります。最小の始め方として「今の紙は残したままスキャンして電子保存する」案も選択肢に入れています。

まとめ

  • 「2025年の崖」は期限を過ぎた今も続く経営課題で、経済産業省は2025年にも総括レポートを出している
  • 刷新は完全移行・置き換え・段階的移行を、業務ごとに組み合わせて考える
  • 技術者が少なくても、現状の見える化を先に切り出せば複数社を比較できる
  • 優先順位は「業務への影響」と「保守の継続性」から決める
  • 小さく始めて効果を確かめ、次の投資を判断する

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